屋上・陸屋根の防水工事の重要性
防水が施された建物の屋上や陸屋根も、日光や雨水などにより、長い年月を経るにしたがって徐々に劣化していきます。屋上や陸屋根の防水層の破断や浮きなどは、そこから雨水が浸入する原因となります。そうなると雨漏りするばかりか建物自体の強度を低下させ、建物の寿命を縮める結果となります。屋上防水に関しては雨漏りが発生すると、目に見えない部分の腐食も大きいと思って下さい。 しかしながらマンションの屋上などは立ち入りが制限されている場合も多く、住民や管理会社が異常に気付くのは漏水や雨漏りなどが起こってから、という場合がほとんどです。ただ、漏水や雨漏りが起こったということは、既に建物そのものがダメージを受けている可能性が高いと言えます。定期的な調査診断で早期発見・早期修繕することが、建物の安全性や資産価値保持のために不可欠です。
マンションの屋上防水層の種類
代表的なマンションの屋上屋根の種類は以下の3種類です。
歩行型(陸屋根)
屋根の使用目的としてだけではなく、設備機器の置き場や屋上駐車場、屋上緑化・屋上庭園等の多岐の用途に用いられ歩行が可能です。(アスファルト防水押えコンクリート仕上げなど)
非歩行型(陸屋根)
屋根の加重を出来るだけ避けたい目的で用いられ、屋根に諸設備を設けない条件では有りますが、配管を敷設する時には軽歩行用の補強材を設けます。(アスファルト露出防水・シート防水仕上げなど)
勾配屋根
意匠性と雨水が屋根に溜まらない目的で用いられます。屋根が勾配になっているため、屋根の色彩が外観から見える事により建物全体のイメージアップになります。(アスファルトシングル葺き仕上げなど)
屋上・陸屋根の防水工法
ビルの屋根や屋上防水の工法は、1,アスファルト押え防水工法、2,アスファルト露出防水工法、3,シート防水工法、4,塗膜防水工法の4つに大別できます。それぞれの工法の中にも色々な仕様や種類、材料の違いがあります。
アスファルト押え防水工法
アスファルト押え防水工法は最も一般的な工法です。ビルの屋上の床がコンクリート仕上げなら、大半はアスファルト押え防水工法だと考えて間違いないでしょう。この工法は実際の現場でも圧倒的に多く採用されており、その標準耐用年数は15年~20年とされていますが、長いものでは60年以上経過した防水層でも現役として役立っている実績もあり、各種防水工法の中で最も信頼性が高いと言えます。その基本的構造は、屋上全体をアスファルト防水層によって防水したのち、その防水層を押えコンクリートによって押えることで日光や人の歩行などの外的損傷から保護すると同時に、劣化の進行を防ぐと言う構造になっています。稀ですがコンクリートの代わりに砂利を敷く、砂利押え工法などもあります。
アスファルト露出防水工法
アスファルト露出防水工法は、押え防水工法のようにコンクリートなどの押え層を設けず、合成繊維にアスファルトを含浸させたルーフィングと呼ばれるシート状の防水層を露出させた工法です。屋上に人の出入りが無い(または少ない)ケース、いわゆる非歩行や軽歩行の屋上の場合に採用されるケースが多い工法です。構造的には、押え工法の押え層のかわりに1層目のアスファルト防水層を砂付きルーフィングで保護し、劣化の進行を防ぐことが目的となっています。表面のルーフィングはあくまでも保護層であり、本来の防水の役目はその下にある防水層が担うことになります。
シート防水工法
シート防水工法は、貼り合せたシートを防水層として用いている工法です。シートにはおもに塩化ビニル樹脂系シート、加硫ゴム系シート、非加硫ゴム系シートなどがあり、それぞれに特性があります。ほとんどの場合が露出工法なので屋上を見ればすぐに分かりますが、まれにコンクリートで押えるケースがあり、アスファルト押え防水工法との違いが見た目では分かりません。この場合は新築時の設計図面や仕様書を見ないと分からないため注意が必要です。
塗膜防水工法
塗膜防水工法は、高分子化合物を主体とした液状材料を所定の厚さに塗布し、造膜(反応硬化して膜を造ること)させて防水層を形成する工法です。平面形状の複雑な屋根や屋上でも容易に防水層を形成出来ますが、高い下地精度が必要であり、施工環境にも様々な配慮が必要です。塗膜防水工法には色々な種類の材料が採用されていますが、主なものにウレタン樹脂系、ゴムアス系、アクリルゴム系、軟質ポリエステル系、ポリマーセメント系などがあります。またFRP樹脂を防水層とするFRP系の防水工法も塗膜防水の一種と言えます。FRP防水などの一部を除いては新築物件に採用されることはほとんど無く、基本的に塗膜防水工法は改修工事に採用されることが多い工法と言えます。
屋上防水層の耐久性
屋上防水層の改修を検討する際に参考となる耐用年数は、建物の立地条件や防水工法・仕様気象条件等の諸条件によって違ってきすので、一様に工法毎に規定するのは困難ですが、ある程度の目安になると考えられます。簡単に言えば、漏水した時が防水耐久性の限界と言えます。ただし、それが何年後かと言うメーカーによる明確なデータは公表されていません。
耐用年数に関する参考指針
防水層の寿命を検討する際の指針として、通称:総プロ(旧建設省が主体となって構成された総合技術開発プロジェクト)によって作成された「建築防水の耐久性向上技術」の中での「防水層の耐用年数」では、以下の様に示されています。
防水工法 | 耐用年数 |
アスファルト防水押えコンクリート仕上げ | 17年 |
露出アスファルト防水 | 13年 |
シート防水(塩ビシート・ ゴムシート) | 13年 |
ウレタン塗膜防水 | 10年 |
防水仕様毎による耐久性
例えばウレタンゴム系塗膜防水もやはり露出防水を前提としていますが、耐久性は一概に言えません。なぜなら、塗膜の厚さが仕様によって異なるからです。おおよそ厚さが2mm(軽歩行用)の仕様であれば耐久性は8~10年、厚さが3mm(歩行用)の仕様であれば10~12年程度と考えられます。またウレタンゴム塗膜防水には、表面にトップコートと呼ばれる保護塗料を塗布しており、耐久性はこの塗料の性能でも違ってきます。トップコートは全てのメーカーが5年程度で塗り替える事を前提としています。
本来、コンンクリートはひび割れなどの欠陥がなければ漏水はしませんが、コンクリートはひび割れなどの欠陥が避けられないため防水が必要となるのです。もし、ひび割れなどの欠陥が発生しなければ防水の必要性はありませんし、建築基準法にも防水を義務付けた規定はありません。しかし全ての建物で防水を施しています。これは、誰もがコンンクリートのひび割れなどの欠陥は避けられないと考えているからです。
防水層劣化診断の必要性
最近ではアスファルト防水が改良された改質アスファルト防水や、塩ビシートでは遮熱タイプのシート、ウレタン防水では通気絶縁工法などがありますので、この場合は一概に標準耐用年数が当てはまるとは限りません。改修を実施する際は、劣化状況が部分的なものであって補修程度で対処できるものか、全体的な劣化で防水改修工事が必要なのかは、現地の条件や状況・経年数によって変わりますので、専門家による劣化調査を行い判断する事が望ましいでしょう。
屋上防水工事の作業工程と内容
改質アスファルトトーチ工法 (既存防水層が露出防水の場合)
既存防水層がアスファルト系の露出防水の場合、改修方法として改質アスファルトルーフィングシートを用いるトーチ工法が有ります。この工法は、下地処理として既存防水層の不具合箇所、例えば膨れが生じた箇所を切開し、トーチバーアーで過熱融解して貼り戻すなどの部分補修をおこないます。防水層の施工は、前面に改質アスファルトルーフィングの裏面をトーチバーナーで加熱融解しながら貼り付け、既存防水層と一体化させます。トーチ工法は、アスファルト系の貼り増しと解釈できる事から、「被せ工法」とは区別されています。 この工法の施工上のポイントは、シートジョイント(接合部)の水密性の確保です。幅105cmのシートを10cmラップし、シートの裏側をトーチバーナーで加熱融解しながら、既存アスファルト防水層に接着させると同時にジョイントを一体化しますが、この作業は極めて熟練を要します。
STEP1 高圧洗浄
接着を妨げるホコリ、レイタンス、油などは高圧水で完全に除去してから清掃します。
STEP2 勾配をモルタルで調整
ドレンへの排水不良や、部分的な水溜りをモルタルで調整し、全体の勾配を調整して仕上げます。
STEP3 プライマー塗布
ルーフィング材の接着力強化の為、プライマーをゴムコテなどでこすり付けます。
STEP4 膨れ補修
部分的なルーフィングの浮き・破れ等の不良箇所は切開し、貼り戻してバーナーで熱を加え接着し補修します。
STEP5 脱気筒の取り付け
脱気筒を取り付け不織物を貼って補強します。補強は出隅・入り隅・パイプ廻り・ドレン廻りも同様です。(絶縁・脱気工法の場合)
STEP6 トーチバーナーでルーフィング貼り
トーチバーナーにより改質アスファルトルーフィングシート防水材を貼る。シートの重ね幅は100mmを確保し、シート内には空気を包含しない様注意します。
STEP7 立上がり部のルーフィング貼り
パラペットのアゴ部分までシートを立ち上げ、平場と同様にルーフィングを貼り付けます。
STEP8 アルミフラットバー取り付け
端部をアルミ製のフラットバーで固定し、取り合い部分にコーキングを打ち込みます。
STEP9 シルバーコーティング処理
表面に付着しているゴミ・ホコリ等を除去し、トップコートを塗布して紫外線から防水層を保護します。